第52回 日本薬剤師会学術大会「原点」
2019年10月13日(日)〜14日(月・祝)
山口県下関市
「進化する2型糖尿病の病態解明と薬物療法」を聴講して
「糖尿病治療の目標は、患者が合併症を来さずに健康な人と同じように質の高い生活を維持して天寿を全うできるようにすること」
糖尿病の発症リスクを決定する遺伝子が数多く同定されてきたそうです。
「糖尿病は膵β細胞の時差ぼけ」と一般の人向けに発表したところメディアに取り上げられたということでした。
難病指定のWolfram 症候群は、WFS1 遺伝子欠損により発症するということですが、(WFS1は主に細胞内小器官である小胞体に存在し、この蛋白を欠損する細胞は小胞体ストレスに脆弱である。)Wolfram 症候群では特に膵β細胞において小胞体ストレスが増加して膵β細胞が脱落、減少することで糖尿病になると考えられています。
DBP、E4BP4 は人間の体内時計の出力系の膵β細胞の時計遺伝子ということで、人が24時間リズムで動いている元なんだと思いましたが、WFS1ノックアウトマウスを肥満にして小胞体ストレス過剰にするとE4BP4 遺伝子が過剰で、DBP 遺伝子が低下します。同じ状態になるE4BP4 過剰発現マウスを作製して研究されました。反対にE4BP4遺伝子が低下して、DBP 活性が高まっている状態は膵β細胞の小胞体ストレスを低下させて膵β細胞を正常に保つ良い状態ということです。
正常な膵β細胞は摂食が始まる時間に備えてインスリンが速やかに分泌されるような準備状態を作りますが、DBP活性が低下している膵β細胞はこのような準備が出来ないことが示唆されたということでした。
膵β細胞体内時計の異常はインスリン分泌不全、糖尿病を引き起こすということがわかりました。
夕方の方が朝よりもインスリン分泌も耐糖能も低下するそうです。時間を横軸にした遺伝子発現量を折れ線グラフにすると、DBP(肝臓でも、脂肪細胞でも)は山型になり(昼の方が高い)夜の方が低下しますが、Bmal1、E4BP4は反対に谷型になり、夜の方が量が増加します。これは夜は休息してエネルギーをため(遅い時間に食べることなくインスリンを使う必要がないはず?)昼は活動して(栄養摂って)エネルギーを消費するという、人体の活動を表しているのだと思います。
血糖値を正常にするためには、体内時計遺伝子のDBP 活性を高く保つように、朝食をしっかり摂る、そして夜遅い食事はなるべく避けるといった生活習慣の改善が大事であることがエビデンスからわかりました。患者さんの服薬指導の基本の知識になります。
またWFS1ノックアウトマウスでインクレチンシグナルがインスリン分泌、耐糖能を改善することがわかったそうです。そうすると、インクレチンはDBP遺伝子活性を高める、体内時計を正常に保つということかと思われます。
インクレチン関連製剤は、DPP-4 阻害薬と、GLP-1 受容体作動薬に大別されます。
日本では事実上、DPP4阻害剤が第一選択薬になっていますが、GLP-1作動薬は腎保護作用があることが解明されてきています。また、GLP-1作動薬には、食欲低下作用、降圧作用があることもわかってきています。
SGLT2阻害剤は心不全の治療効果があることがわかって、申請中ということです。3point MACE(心血管イベント死または非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中)について 検討されましたが全て低下したということです。心筋梗塞、脳卒中、心血管死は二次予防でのみ低下しましたが、心不全、その心血管死は一次予防でも低下の改善が見られたということでした。
米国糖尿病学会のコンセンサスレポートにあるように、2型糖尿病患者で、心不全を併発していればSGLT2、CKDを併発していればGLP1作動薬を選択するなど、これからの新しい選択基準になるのではないかということでした。
日本薬剤師会学術大会では、他地域の都道府県の意見、活動が聞けることが面白いと思っています。当薬局も健康サポート薬局申請準備過程の薬局ですが、各地域で健康サポート薬局推進のためにいろいろ活動されている内容は参考になりました。
厚生労働省の方の発表は何度もどこかで見たような地域連携のような図と早口な発表には辟易しましたが、地域住民が何をしたら薬局に来てくれるか、患者ファーストで盛り上げていって欲しいということでした。申請に向けて活動があまり進んでいない地域の方の「各薬局をどう底上げして行くべきか?」な質問に対しては、届け出が目的ではないこと、また、厚生省が掲げる2040年を展望した社会保障改革を調べるとわかりますが、2040年全世代の保障を築くためにAIを活用して「より少ない人手でも回る医療を実現」したいということか、59000軒の薬局を淘汰したいという本音が聞けて良かったです。
これから先AIでいろいろな職業が人手が不要になっていくと思われますが、厚生労働省の薬剤師の需要のグラフはなんとか緩やかな右肩上がりでした。2040年は私はこうやって学会に参加することは出来なくなっているかもしれませんが、若い方々に明るい未来のために邁進して行ってもらいたいと思います。
コンテンツ
学会・活動報告
- 香港視察
ホテルサービスの実地研修 - 第50回日本薬剤師会
学術大会に出席して - 第21回日本地域薬局
薬学会年会に出席して - 東海薬剤師学術大会
に参加して - 第20回 日本地域薬局
薬学会年会に参加して - 第45回
日本薬剤師会学術大会 - 内服薬の特徴について
- 愛知県女性団体連盟の
研修旅行に参加して - グループホームの
運営推進会議に参加しました - 第43回
日本薬剤師会学術大会 - プレタールOD錠 講演会
- 第42回薬剤師会
学術大会に参加して - 第22回FAPA(FAPA2008)
- 第2回
日本緩和医療薬学会 - 体験学習できてくれました
- 創立10周年記念旅行
- FIP2008参加報告
- APS(全国調剤薬局研究会)
2007年度全国大会 - 第40回
日本薬剤師会学術大会 - FAPA2006 YOKOHAMA
- APS(全国調剤薬局研究会)
2006年度全国大会 - 第39回
日本薬剤師会学術大会報告 - 2006 FIP in Salvador
- 台湾訪問
- 実習勉強会
- 第38回
日本薬剤師学術大会報告 - 韓国研修旅行
- 第20回
FAPA2004に参加して - FIP2004 in New Orleans
- PSWC2004
第2回世界薬学会議報告 - 第36回
日本薬剤師学術大会報告